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古澤 明 教授 × 中村 泰信 教授

「量子コンピューター対談」

日本の量子コンピューターの第一人者である、古澤明教授と中村泰信教授。
古澤教授は光を、中村教授は超伝導量子ビットを使い量子コンピューター研究の最先端を牽引しています。物理工学専攻出身のお二人に現在の研究や、物理工学専攻の魅力をお伺いしました。

2021年7月29日更新
写真:量子コンピューター対談 古澤 明 教授 × 中村 泰信 教授

お二人は異なったアプローチから量子コンピューターの研究をされています。まず古澤教授が研究されている、光を作った量子コンピューターについて、特徴やメリット・デメリットを教えていただけますか?

写真:古澤 明 教授

古澤 明 教授 光量子コンピューターの起源は光コンピューターです。光はキャリアの周波数が高いのでクロック周波数を上げることができます。しかし、私が学生だった頃の光コンピューターはいわゆるアナログコンピューターだったので誤り訂正ができず滅んでしまいました。それから40年たって量子力学が認知され、誤り訂正ができることがわかりました。この光量子コンピューターは、今の量子コンピューターを遥かに凌駕できるような量子コンピューターになれるのではと思っています。

私はこの研究を25年前にカリフォルニア工科大学で始めたのですが、その時英語も大して上手ではなく、大変苦労しました。しかしその中で、生き残れたのは物理工学科にいて量子力学と制御論を学んでいたおかげだと思っています。制御論ではラプラス変換が重要になりますが、ラプラス変換は工学部では習うけれども、理学部では習わないものです。

理学系だとラプラス変換よりもフーリエ変換を学ぶイメージがあります。

古澤 明 教授 フーリエ変換ももちろん重要ですが、物事をきちんと制御するためにはラプラス変換が必要になってきます。量子力学を深く理解している人も、制御論を深く理解している人も星の数ほどいますが、両方を深く理解するのは物理工学科の人しかいないのではないかと思います。

続いて中村先生、超電導量子ビットを利用した量子コンピューターの特徴やメリット・デメリットを教えていただけますか?

写真:中村 泰信 教授

中村 泰信 教授 量子コンピューターはいろいろな種類があります。光や原子、スピンを利用したものもあります。私が研究している超伝導量子コンピューターでは超伝導量子ビットを使います。全部が電子回路でできていて、それが面白いところでもあり、またメリット・デメリットでもあります。超伝導量子コンピューターではコイルとキャパシタが基本要素で、L C共振回路にマイクロ波のフォトンを閉じ込めてそれを量子情報として扱います。そこにもう一捻りして、超伝導回路に特有のジョセフソン接合を用いて、超伝導体の間のトンネル効果を使うというのが、超伝導量子コンピューターの基本要素です。その要素を人間が組み合わせて、C A Dで設計図を描き、組み立てます。こうやって人工的に量子系を作れるというのが超伝導量子ビットの面白いところです。
難しいところは、回路は真空中に浮かんでいる原子と違って周りに基盤や回路など沢山のものがあります。すると量子情報が乱れるデコヒーレンスと呼ばれる状態になってしまって、それを克服する研究が世界中で行われており、私たちの課題でもあります。

今、物理工学科の学生と共に研究をしていますが、超伝導は個体物理という学問の分野で、また超伝導量子回路の上では、マイクロ波のフォトンを扱うので、量子光学という学問が重要なコンセプトとなっています。もちろん回路学や制御論というのも必要です。そういった学問を一通り学べるのが物理工学科の良いところです。
正直にいうと私が学生の頃は物性に興味があり物理工学専攻にきたので、当時は回路学や制御論などの授業は、「ややこしいなぁ」と思っていてあまり得意ではありませんでした。しかし企業に就職してから量子コンピューターの研究を行うのに必要となり、昔の教科書を引っ張り出してきて学び直しました。
物理と工学というのは、物理が何かを明らかにした瞬間にそれは工学のツールとなる。それで工学が発展すると、今まで見えなかった物が見え、そこからまた新しい物理が出てくるということがあります。物理と工学を行ったり来たりして、発展していくので、物理工学というのはいい組み合わせだと思っています。

PROFILE

写真:古澤 明教授
古澤 明教授
研究テーマ
量子テレポーテーション
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写真:中村 泰信教授
中村 泰信教授
研究テーマ
様々な量子の自由度を自在に制御する
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