談話会・セミナー

第2回 理論グループ共通セミナー(講師:泉田 勇輝 氏)
2012.05.21

日時: 2012年5月22日(火)16:30~
場所: セミナー室A・D(工6号館3階)
講演者: 泉田 勇輝 氏
所属: 東京大学理学系研究科物理学専攻
タイトル: 最大パワーで動く熱機関の効率論:新しい「熱機関の物理学」を目指して

概要:
熱力学は熱機関の解析に始まった。カルノーは熱機関の効率には熱源の温度で決まる上限値(カルノー効率)が存在することを明らかにしたが、この上限値は熱機関が無限にゆっくりと動作する準静的極限で達成されるため、パワー(単位時間当たりの仕事、仕事率)はゼロとなるという実用上の問題点が存在する。有限のパワーをもつ熱機関は必然的に非平衡状態で動作するため、この問題は非平衡系の熱力学の問題となる。このような問題意識のもと、例えば、1975年にCurzonと Ahlbornは熱機関の最大パワー時の効率がカルノー効率のように熱源の温度のみで与えられるとする公式(Curzon-Ahlborn(CA)効率)を提案している [1]。
近年、最大パワー時の効率に関してはカルノー効率に比すべき普遍性をもった構造があることが明らかになってきている。特に2005年にVan den Broeckが線形不可逆熱力学を用いて、最大パワー時の効率の上限値がCA効率となることを一般的に導いて以来 [2]、最大パワー時の効率論は工学と物理学に跨る問題として再び注目を集めている。
本講演では、有限時間で動作する熱機関の物理学の基礎から解説し、最近の進展までを我々の仕事[3-6]を中心に紹介する。
最初に理想気体を作業物質とした有限時間カルノーサイクルの分子運動論モデルを導入し、その輸送係数を計算することにより有限時間カルノーサイクルが線形応答領域では上限値であるCA効率を達成するモデルであることを証明する[3,4]。またVan den Broeckの理論をミニマルに拡張した非線形応答領域に適用できる理論[5]を導入し、この領域ではCA効率は上限値とはならず別の上限値が存在することを一般的に示す。
最後に、熱機関の緩和時間のサイズ依存性に着目することによる“最適”サイズの発見など、これまでの最大パワー時の効率論では説明のつかないメゾスケールの熱機関の性能に関する計算機シミュレーションによって得られた最近の知見[6]についても紹介する。これらを通してカルノーの時代には想像できなかった「新しい熱機関の科学」の可能性について議論したい。

[1] F. Curzon and B. Ahlborn, Am. J. Phys, 43, 22 (1975).
[2] C. Van den Broeck, Phys. Rev. Lett. 95, 190602 (2005).
[3] Y. Izumida and K. Okuda, EPL. 83, 60003 (2008).
[4] Y. Izumida and K. Okuda, Phys. Rev. E 80, 021121 (2009).
[5] Y. Izumida and K. Okuda, EPL. 97, 10004 (2012).
[6] Y. Izumida and N. Ito, submitted.

(紹介教員:伊藤伸泰 准教授)

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