談話会・セミナー

第1回 物理工学科教室懇話会 (講師:百生 敦 准教授)
2011.02.21

日 時:2011年2月21日(月) 13:30~
場 所:工学部6号館3階セミナー室A
講 師:百生 敦 准教授
題 目:X線の位相で観る

Abstract:
高エネルギー電磁波であるX線は、1895年のレントゲン博士による発見直後より、物体の透視を可能とする光線として医療や非破壊検査などで日常的に広く利用されている。これは、高い透過力と直進性を有するためであるが、それゆえにまた、可視光のようには自由に制御できない光であるという側面がある。
それでも、シンクロトロン放射光などのX線源の発展に伴い、X線を制御するための学理であるX線光学は、車の両輪として発展してきている。ただし、X線領域で機能する光学素子の実現には、単結晶や極めて高精度な形状を持つ構造物が必要である。すなわち、究極的にはX線の波長と同じ原子レベルでの制御が求められる。X線光学はこの技術的困難を克服しつつ発展させなければならない。
X線の位相の計測や制御はそのなかでも中心的テーマのひとつである。例えばX線画像分野では、X線を波動として活用されたことはあまりなく、1990年代に入って漸く、X線領域の位相コントラストの研究が活発になった。高分子材料や生体軟組織などの弱吸収物体の撮影が感度を約千倍向上させて可能となるため、実用側面からもその発展には期待が寄せられる。
1990年代初めに講演者は、シリコン単結晶からなるX線干渉計をデジタル画像計測技術と融合させて、X線領域の位相計測を初めて成功させるとともに、それに基づく三次元観察(X線位相トモグラフィ)を実現した。医師との共同研究においては、癌が無造影で描出できることを実証した(Nature Medicine, 1996)。この原理による装置は、KEKやSPring-8のシンクロトロン放射光施設に常設されており、多くのユーザーに使われている。
一方、X線位相コントラスト撮影法が巨大なシンクロトロン放射光施設外(例えば病院や工場)のX線源で稼働可能となれば社会的インパクトは大きい。2003年に考案したX線透過格子を用いる微分干渉計に基づく位相撮影手法はその実現性を飛躍的に向上させるものであり、その開発にも力を入れている。現時点で、プロトタイプが二か所の病院に設置されており、医師によるリウマチや乳癌の医用画像診断のテストが行われている。シンクロトロン放射光施設で培われた先端計測技術が広く一般に波及する一例となるであろう。
今後は、さらに自由にX線を制御できるようにX線光学を発展させる必要があり、X線画像科学としては、ナノ空間の三次元動画像の撮影が夢である。X線光学とX線画像科学に軸足を置きつつ、応用面でのインパクトも積極的に意識し、両者のバランスの上で今後のこの分野を推進したい。

問い合わせ先;鹿野田 一司

談話会・セミナーのトップに戻る