談話会・セミナー

第2回 理論グループ共通セミナー (講師:荻津 格 氏)
2010.05.25

日 時:2010年5月25日(火) 16:30~
場 所:工学部6号館3階セミナー室A
講 師:荻津 格 氏
Condensed Matter and Materials Division (CMMD),Physical and Life Sciences Directorate,
Lawrence Livermore National Laboratory
題 目:Is elemental boron boring?

Abstract:
元素固体としてのボロンは様々な奇妙な振る舞いを示すことが、ボロン研究者(主に化学)の間では周知の事実であったのですが、物性物理の世界では余りよく 知られていなかったようです。例えば、元素ボロンの高温(融点近傍)における熱力学的安定相ーbeta-rhombohedral boronーは大量のdefects (およそ4-5atomic %)を持ち、この欠陥は長時間に及ぶannealingでも減少しないことが古くから知られていたのですが、これが何に起因するのかはごく最近まで全く知 られていませんでした。おそらく、高純度ボロン結晶の精製が技術的に困難であること、また、この結晶構造が常識を越えた複雑さを持つことなどにより、実験 による検証が不可能だったと考えられます。その結晶構造は、icosahedraとその重合体で構成されたネットワークと、そのネットワークの間に発生す る空間をしめるInterstitialから構成されます。さらにicosahedronが3つ重合したユニットの一部結晶サイトにはおよそ25パーセン トにも及ぶvacancyが発生することも知られています。おそらく、熱力学に慣れ親しんだ物性物理屋としては、これらの格子欠陥はentropic effectにより高温でのみ熱力学的に安定であり、このような欠陥が存在しない低温結晶相が実際には存在する、というのがもっともらしいシナリオだと思われるのではないでしょうか?そのような議論は、1950-1960年代の論文にはまれに見かけられるのですが、おそらく、実験的検証が不 成功に終わったためしばらく忘れられた課題であったようです。さて計算物理の手法の発展と計算機の性能向上により、2003-2006年頃にはこのシナリ オをサポートする第一原理計算の結果が複数提出されました。ただし、興味深いことに、これらのIntrinsic defectを導入することにより、beta-boron結晶の内部エネルギーが低下することもわかりました。これらの計算では、実験的に観測された欠陥 のうちごく一部だけ考慮されたのですが、その後、すべての欠陥状態を導入することにより、beta-boronの内部エネルギーが大幅に下がり、この相が 基底状態相である可能性が高いことが理解されてきました。著者のグループでは、第一原理から計算された全エネルギーにフィットしたCluster Expansion HamiltonianにMonte Carlo simulated annealingを適用することにより欠陥の安定な占有状態を研究し、その結果として、beta-boronが基底状態相であるという結論を2006年 に得ました。ここで問題になったのが、数値シミュレーション上では基底状態が縮退しており、長距離秩序相が現れない、ということです。本セミナーでは背景の紹介の後、以下に関する詳細を報告します。1. なぜ欠陥の導入が内部エネルギーの低下を導くのか? 2. なぜ基底状態が縮退している(もしくはそのようにみえる)のか?3.縮退に起因する物性は実際の物質でも観測されているのか?

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