時間の流れが場所によって違う、なんて話、駒場にいた頃はSFだった。
量子コンピュータだって、遠い未来の夢物語だった。
「衝撃的だったのは、そのSFに本気で取り組んでいる人がこんなに近くにいることです」。
そう話すのは、香取研究室に入ったばかりの高橋忠宏。
香取研といえば、137 億年経っても誤差1秒以下という「光格子時計」の研究で知られる。
世界最先端の研究室の内側から見た、物理工学の魅力とは。

 

 

光格子時計という
ものさしを手に入れる

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「時間を正確に計れる時計を持つということは、正確なものさしを持つことなんです」と、香取研の高橋忠宏は説明する。香取秀俊教授が生んだ光格子時計は、設置場所をほんの1cm高くするだけで、重力が大きいほど時間がゆっくり進むという一般相対性理論を実測できる精度を持つ。時計でありながら、時間とは別の物理、時空の歪みまでも観測できるのだ。「地球上で一番正確なものさしは、量子コンピュータの開発にも、あるいは全く別の分野にも、できることがたくさんあります」
もともと量子コンピュータに興味を持っていた高橋。香取研に入る決め手になった香取教授のことばをよく覚えている。「先生の話では、量子コンピュータはもはや漠然とキャッチーなテーマではなく、メモリをどうする、計算や通信をどうするといった具体的な検討が始まっている。だから先生の時計のように、自分の専門性を持つことが力になる、と」。何十年後かの量子コンピュータ実現に向けて本気で実験を重ねている当事者の語りぶりに、感銘を受けた。「量子力学的な現象が見えたというだけではなく、それを使ってどうするかという提案の時代。それがこれからどう化けるか、楽しみです」

 

 

観客席から打席へ

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「駒場時代は、例えるなら東京ドームの観客席で大谷すごいなって眺めているようなもの」と高橋は言う。「バットで打球を100m飛ばす大変さは、バットを振ってみないとわからない」と。
どれほど先駆的な量子力学の研究でも、最初に障壁になるのは電気回路の熱雑音や、地面振動といった古典的なノイズだったりする。”量子的な”地平に立つのすら難しいことを、自分が当事者になって初めて痛感するのだ。「特に物工は企業の研究現場に接する機会が多いので、現場レベルの苦労が実感としてわかるんです」と高橋。研究室に入って以来、多数の先駆者たちと出会い、刺激を受けてきた。
「作ってみないと始まらないというのが物工の基本スタンス。でも物工には理論家の先生も勢揃いしていて、学部生のうちから世界トップレベルの理論をたたき込まれる。一度それを経験すると理論のすごさがわかります。だから僕らは、問題を解決する方法がわからない時も、技術的に難しいのか理論的に難しいのかといった議論はできる。『わけがわからないけど大谷はすごい』じゃなく、打席に立つ難しさがわかるんです」。当代一流のプロ選手と一緒にプレーするうちに見えてくるのは、教科書より10年20年先を行く前人未踏の世界だ。
その経験は、将来アカデミックに進むにしろ企業に就職するにしろ必ず役に立つと、高橋は感じている。「博士課程まで進めば世界第一線で活躍できるし、企業なら日本をリードする場で活躍できる。たくさんの選択肢がこの学科には広がっています」

 

 

【光格子時計】

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時間を正確に計るため、物理学者たちは原子の周期運動に着目し、より正確で安定した「原子の振り子」を求めてきた。1980年代に登場した単一イオン光時計は、原子1個の振動数を高精度で読み取るといったものだが、量子ゆらぎの効果を平均化するため、計測には100万秒つまり10日も要していた。それから30年が経ち、本学科の香取秀俊教授が中心となって発案したのが光格子時計。その新奇性を簡単にいえば、相互作用しないように光格子に閉じ込めた原子100万個の状態を一度に計ることにより、計測時間わずか1秒で18桁の精度を実現したことだ。

 

 

高橋忠宏

香取研究室 高橋忠宏(取材時:修士課程1年)

 

 

 

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