東京大学工学部物理工学科・大学院工学系研究科物理工学専攻

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教員からのメッセージ

AIハードの研究なら物工で

教授 古澤 明
教授 古澤 明

最近、世の中ではAI (Artificial Intelligence:人工知能)の研究がとても流行っています。ビッグデータから車の自動運転まで、AIに関する話を聞かない日はありません。ところで、皆さんはAIの研究はソフトウエアの研究だと思っていませんか? そんなことはないと思います。もし今のハードウエアの延長線上にAIのゴールがあるのであれば、世界的大手のIT企業たちが大金を量子コンピューターなどの新規ハードウエアに投資するとは思えません。そう、本当に使えるAIを実現する次世代のハードウエアは、明らかに現在のハードウエアの延長線上にはないのです。計算の1ステップごとに電気を消費する現在のハードウエアでは、発熱やエネルギー消費の観点から言って、このまま並列化・巨大化していくと地球環境を破壊しAIどころではありません。このように、AIのための新たなハードウエアが求められているのです。

物理工学科ではこのような新たなハードウエアを多方面から研究しています。たとえば、強相関電子系にはスキルミオンという渦状の磁気構造体が存在し、それを用いた超低消費エネルギーエレクトロニクスが研究されています。また、1980年頃リチャード・ファインマンにより最もエネルギー消費の小さいコンピューターとして提案された量子コンピューターの研究も盛んです。量子ドット中の電子スピンからなる量子ビット、超伝導量子ビット、光子による量子ビットなど、有望な量子系での量子コンピューター研究を網羅しています。さらに、2次元電子系を用いて、誤り耐性のあるトポロジカル量子コンピューティングに必須の特殊な分数量子ホール状態を生成してしまった研究室さえ存在します。そして、これらすべてにおいて世界のトップに君臨するのが物理工学科なのです。将来AIで一旗揚げてやろうと考えているあなた、是非物理工学科への進学を考えてみませんか?

物理工学科駒場対策委員長
古澤 明

物理の理論研究も物工で

物理工学科 准教授 沙川貴大
准教授 沙川貴大

皆さんは物理工学という学問にどのようなイメージをもっているでしょうか。もちろん物理工学とは、物理に基づく工学です。物理学を広く深く学びながら、それを工学へ応用したい、そして社会に役立つことをしたい、という志をもつ学生さんにとって、物理工学科は最高の場所だと思います。物理工学科には世界最高の先生方が揃っています。また皆さんの中には、物理学そのものが大好き、あるいは物理学の理論が好き、という人もいるかと思います。また、前期課程の講義に飽き足らず、自分でどんどん物理や数学を勉強している人もいるかもしれません。このような人にとっても、物理工学科は最高の場所だと思います。そこでここでは、理論物理が専門である私なりの視点から、物理工学科の魅力を紹介してみようと思います。

私の専門に比較的近いところから一例を挙げると、量子情報という分野があります。これはまさに物理学と工学のクロスオーバーから生まれた分野で、物理工学科では世界トップの研究をしています。具体的には、不確定性原理に基づく「物理法則のレベルで原理的に破れない暗号」である量子暗号、また、普通のコンピュータでは数千年かかるような計算(素因数分解)を量子力学の原理を使って数分で実行できる量子コンピュータ、などが世界中で盛んに研究されています。このうち量子暗号は、ほぼ実用化のレベルに達しています。これらは、かつては哲学の問題と思われがちだった「観測とは何か」「実在とは何か」「シュレーディンガーの猫は存在するか」といった、量子力学のラディカルな原理的問題に端を発しています。それが、この30年の技術と理論の進歩により、精密な科学技術へと昇華しました。またごく最近になって、量子情報の考え方を未完成の量子重力理論の構築へと応用する試みも活発になっており、次々と分野間のクロスオーバーが広がっています。

また別の例を挙げると、素粒子や宇宙といった極微あるいは巨大な世界と同じ物理的構造が、比較的身近なサイズの物質の中にもあることが明らかになってきました。それは、場の量子論や位相幾何学(トポロジー)と深く結びついています。たとえば、素粒子物理のなかで発展してきた「トポロジカルな場の理論」が物性物理に応用され、それが「トポロジカル量子コンピュータ」などの工学的な応用につながると考えられています。量子力学と幾何学が織りなす美しい構造が、工学的な対象である物質の中に潜んでいるのです。

これらはほんの一例ですが、このような物理と工学の本質的なクロスオーバーは、現代物理学のいたるところで見られます。そして物理工学科は、そのような研究の最前線の拠点になっています。

また、このような物理学と工学の密接な関係は、最近になって始まったことではありません。歴史を紐解いてみると、熱力学は、効率のいい熱機関を作ろうとする試みから生まれました。数えきれないほどの科学者と技術者、そして発明家たちが、一獲千金を夢見て永久機関を作ろうという努力をしました。それがどうしても不可能であると分かったとき、現代的な熱力学への道が拓かれたのです。また量子力学は、溶鉱炉の中の黒体輻射の性質をいかにして理解して制御するかという、きわめて実用的な研究に端を発しています。このようにして生まれた量子力学は、その後の半導体技術を深いところで支え、その技術がまた物理学の基礎を支える、という発展が20世紀から今日に至るまで続いています。このように、物理学とは本来「理学か工学か」と単純に分類できるものではないと思います。「自然を理解する」ことと「自然を制御する・自然とうまく付き合う」ことは、一枚のコインの裏表のような関係にあると言えるでしょう。

原理の探求と工学への応用が表裏一体となって発展を遂げている物理学の最前線を体感できる場所、それが物理工学科です。

物理工学科駒場対策委員
沙川 貴大